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連載その5。続・実在の場所だから描けたこととは?

スタジオ・ゼロの橋野です。
「過去にインタビューなどで聞かれたことを振り返り、今、これからの為に想う事」を綴らせてもらっています。5回目の今日は「実在の場所だから描けたことは何?」というクエスチョンについての続きです。

『ペルソナ5』では、再び都会的な舞台へ戻そうという事だけは最初から決めていました。しかし、舞台を「実在の東京」にすると決めるまでには時間がかかりました。何故なら、実在の地名、特に「東京」という名前は、ペルソナシリーズの前身である『真・女神転生』の世界観設定における不可欠のキーワードであり、重複を避けるべきだという先入観があったから。これは、他シリーズと安易に重複させたくないという単純な理由からではなく、もう少し深い部分に由来するものです。

女神転生の世界観にとって「実在の東京」という記号は「本当に起こるかもしれない。知らないだけで水面下では進行しているのかもしれない」という、現実世界の二面性や臨場感を作品に与えるための非常に重要な要素だと考えています。僕自身が『真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE』をディレクションさせて頂いたときも、これを前提として考えました。しかしペルソナは、過去作から一貫して「架空の都市」を舞台にしてきました。大人を対象にした作品作りを意識しながらも、高校生たちの心の成長を描くジュブナイルとして構成されているペルソナシリーズの舞台設定。似てはいるが何処でもない「架空の都市」は、「あるのかもしれない」「自分の住む街にも当てはまるかも知れない」という「共感性や一体感」をユーザーの心に喚起するファクターであり、それは女神転生が「実在の東京」を使って表現しているものとは別のものです。だからこそ、区別しなければならないと考えていたんですね。

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「『真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE』(懐)。そういえば、大マップ上のプレイヤーシンボルは伝統ですが、作成当時にプログラマが仮で置いた絵がそのまま採用されたそうです(笑)。」

そのため、構想段階では「架空の地方都市」を舞台にするしかないと決めつけて考えていました。前作の山間部の田舎と差別化するために、海の見える沿岸部の街、函館や長崎のような街並みや、首都圏に近い横浜のような街をモチーフにすることを検討しました。実際、江ノ電が走る風景イメージをテストで作ってみたくらいです。しかし、どうにも「しっくり来ない」。その解決策がなかなか分からず、当時は相当悩んでしまいました。

…ですが、よく考えてみると広く知られている古典的怪盗――たとえばフランスのパリを騒がす怪盗ルパンや、日本にも帝都を騒がす「二十面相」という怪人がいますが、彼らはどちらも「首都」――単に人の多いどこかの都市ではなく「首都」を騒がせるイメージを持っており、その設定は『ペルソナ5』を作るにあたって必要不可欠な要素にも思えました。一般人ではない反社会的なアウトローが活躍するピカレスクを描く場合に必要な舞台と何か。それは人間が過剰に密集していて、少しでも気を緩めれば自分自身の存在価値が見えなくなる――自分が他の誰かと交換可能な存在に過ぎないと錯覚してしまいそうになる舞台こそ適切であるように思いました。そして、誰もが共通認識としてそう思える街=東京こそ、今回のアウトローが騒がせるに相応しいのではないか。そういう街でこそ、名も無い高校生たちのピカレスク的な活躍が映えるはずだ、ということに一巡して気がつきました。

もちろん「架空の大都市」を舞台にしても、似たような話は描けるかも知れません。しかし、ここで求められる大都市とは「プレイヤーの誰もが知っている大都市」です。「作中では有名ということになっている架空の大都市」では、どうしても「そんな大都市は本当は無い」というギャップを自力で納得できるユーザーしか楽しめなくなってしまいます。これでは「あるのかもしれない」というペルソナシリーズならではの共感や錯覚が喚起されず、臨場感が期待できません。これをクリアするには、実名を使用するしかなく、だったら、日本で最も人口過密で、アウトローが戦うべき社会統制システムの中心を担っている「実名の首都」を舞台にすべきだ、と考えることにしたのです。

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「渋谷のスクランブル交差点。ありふれた設定と思いつつ、だからこそ使ってみることにしました。」

同じ「実在の東京」を使うとしても、このアプローチは、ペルソナ独自の、いかにもペルソナ的なものであり、女神転生が実在の東京を使っている経緯とは決定的に違うと言えます。そう思い込むことにして(笑)、実在の東京を舞台にするという結論にやっと至ったのです。そして同時に「東京」という名前だけでなく、渋谷も渋谷、新宿も新宿、として描こうと決めました。そして、主人公自身のプライベートエリアである居候先や学校だけ、広い東京の中の「あるかもしれない」場所として「四軒茶屋」「蒼山一丁目」として架空の名前で置くことにしました。

…とは言え、こんな話をすると「ただの地名の設定にややこしくこだわり過ぎだ」と思われる方もいるかも知れません。腑に落ちないままに制作を進めると、どこかで設定が崩壊してしまうことがあるので、地固めとしてどうしても必要なことだったのですが、振り返れば、なんであんなに悩んだんだろう…というのが正直な想いです。新作では出来るだけ悩まずに進行したいものですが、スタジオ・ゼロには経験とアイデアが豊富なスタッフが、日に日に集まってきているので、力を合わせて乗り切りたいな、と思っています(鼻息)。

PS:8月の終わりに、スタジオ・ゼロでのスタッフ採用を促進するための「採用特番」動画を配信予定です。採用特番って聞いたことないワードですよね(笑)。業界内向けの内容なのでゲームの新情報はありませんが、プロジェクトに関わっているスタッフのインタビューなどをまとめたものなので、皆さんも宜しければご覧ください。配信時はニュースとして、お伝えできると思います。あと、この動画ですが、意外な人物がナビゲート役となっております。是非、お楽しみに!